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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和48年(ワ)107号 判決 1976年8月30日

原告

石田惣次郎

被告

鎌田由太郎

ほか一名

主文

被告鎌田由太郎は原告に対し金一一七万五、五七八円および内金一〇二万五、五七八円に対する昭和四八年三月三〇日から、内金一五万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告鎌田由太郎に対するその余の請求および被告藤井長吉に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告と被告鎌田由太郎との間においては、被告鎌田由太郎に生じた費用の三分の二を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告藤井長吉との間においては全部原告の負担とする。

この判決の一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

被告らは各自原告に対し金三〇一万七、六五六円およびこれに対する昭和四八年三月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

(被告ら)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  事故の発生

原告は次の交通事故(以下本件事故という。)により後記の傷害を受けた。

1 発生日時 昭和四六年三月四日午後零時一〇分ごろ

2 発生場所 様似町大通り三丁目二七番地先路上

3 加害車 普通乗用自動車(登録番号室五む八六四三号、以下本件加害車という。)

4 右運転者 鎌田広美

5 被害者 原告

6 事故の態様 原告は鎌田広美運転の本件加害車両に同乗し、えりも方面から浦河方面に進行中運転者において車両を滑走させ、対進して来た国鉄バス(登録番号室二い一七六号)に衝突した。

7 結果 原告は頭部外傷(脳室拡大)および頸部挫傷の傷害を受けた。

二  責任原因

被告鎌田由太郎は本件加害車を所有し、被告藤井長吉に貸渡し、その運行の用に供したものであり、被告藤井長吉は本件事故当時被告鎌田由太郎から本件加害車を借受け、これを鎌田広美に運転させ、自己のため運行の用に供したものである(いずれも自賠法三条)。

三  加療経過

1 原告は本件事故直後様似病院に入院して昭和四六年四月八日まで入院治療を受け、同月九日から昭和四七年二月一三日まで通院治療を受けた。

同月一四日ごろ頭重、めまい感等が激しくなり再度入院し、同年四月一七日ごろ脳内部に溜水症状が現われ、開脳手術のため転院した。

2 同年五月八日函館市立函館病院に入院、同年六月三〇日まで治療を受けた。

3 同年八月一五日ごろ頭痛、後頭部痛など激しくなり、幌泉郡えりも町紺野医院に通院治療を受け、同年一二月一四日ごろ頸椎棘突起圧痛、右上膊神経痛、右大後頭神経圧痛、右肩関節裂隙前面圧痛、軽度の右肩関節拘縮等の後遺障害を残し、治療を終了した。なお、右症状により自賠責保険後遺障害一二級の査定を受けた。

四  損害

1 治療費関係 金一三万二、二〇六円

(一) 治療費 金八万三、三四六円

函館病院 金七万〇、三〇六円

紺野医院 金一万三、〇四〇円

(二) 入院諸雑費 金三万〇、八〇〇円

原告は本件事故により次のとおり合計一五四日間入院し、その間少くとも一日二〇〇円宛の入院諸雑費を要した。

様似病院 一〇〇日間

昭和四六年三月四日から同年四月八日まで三六日間

昭和四七年二月一四日から同年四月一七日まで六四日間

函館病院 五四日間

昭和四七年五月八日から同年六月三〇日まで五四日間

200×154=30,800

(三) 通院交通費 金一万八、〇六〇円

様似病院関係 金一万三、八〇〇円

昭和四六年四月九日から昭和四七年四月二八日まで実通院日数 三〇日

えりも町歌別から様似町様似駅前往復バス賃四六〇円

460×30=13,800

紺野医院関係 金四、二六〇円

昭和四七年八月一五日から同年一二月一四日まで実通院日数 七一日

えりも町歌別からえりも町往復バス賃六〇円

60×71=4,260

2 逸失利益 金二〇二万五、二二四円

(一) 原告は住所地で漁船を所有して漁業に従事していたものであるが、本件事故により次の得べかりし利益を失つた。

原告の本件事故前の昭和四五年の収入内容は次のとおりであつた。

主業

こんぶ・海藻採取 八〇万六、〇四一円

漁獲等 一八万〇、三四二円

総経費 四四万九、一五九円

差引純利益 五三万七、二二四円

副業

原告は主業の閑暇期において薪切機を所有して薪切業をなし、次の収入を得ていた。

平均稼働期間は毎年九月から翌年五月末日ごろまでの九か月間

昭和四五年九月から昭和四六年二月までの収入五四万五、三三五円

平均一か月の金額 九万〇、八八九円

545,335÷6=90,889

(二) 原告は本件事故により主業については昭和四六年三月から昭和四七年一二月末日までの間、一部こんぶ漁に従事したほかは雇人により営まざるを得なかつた。

また、昭和四七年においてはこんぶ・海藻を除くその余の漁業を行なうことができず、そのため、昭和四七年のこんぶ・海藻を除くその余の漁業収入の全部を失い、さらに昭和四六、四七年において人件費が急増し、損害を生じた。

(1) 昭和四七年におけるこんぶ・海藻を除くその余の漁業収入 金二五万六、〇〇〇円

原告は昭和四六年中こんぶ・海藻を除くその余の漁業によつては金五一万六、八五二円の収入を得、金二五万八、四二六円の経費を要した。昭和四七年においてはこんぶ・海藻を除き全く漁業を行なわなかつたが、この漁業収入は前年と同程度であつた。そこで、原告が昭和四七年中漁業によつて失つた利益は少くとも金二五万六、〇〇〇円となる。

516,000-260,000=256,000

(2) 人件費の増加額 金三一万五、〇〇〇円

原告は本件事故以前の一年間ほぼ七万五、〇〇〇円の人件費を要した。しかるに、昭和四六年は金二四万五、〇〇〇円、昭和四七年は金三二万円の人件費を要し、結局合計金三一万五、〇〇〇円の人件費が増加され、これと同額の損害を受けた。

(三) 副業 金一四五万四、二二四円

原告は本件事故により薪切等の仕事に従事することは全くできず、治療終了後の昭和四七年一二月以後においてもその仕事に復することはできなくなつた。そこで、少なくとも本件事故により原告の得ていた薪切による収入のうち次の部分を失つたものと言える。

昭和四六年三月から同年五月まで 三か月

同年九月から昭和四七年五月まで 九か月

同年九月から同年一二月まで 四か月

合計 一六か月

90,889×16=1,454,224

3 慰藉料 金一〇〇万円

原告は本件事故により前記加療経過のとおり治療し、その間の精神的苦痛に対する慰藉料として少なくとも金一〇〇万円が相当である。

4 弁護士費用 金二七万円

ただし、着手金、成功謝金の合計

五  自賠責保険金の受領

原告は自賠責保険から傷害に対する補償として金一〇〇万円、後遺症に対する補償として金六七万円の支払を受けた。右金員のうち、金五九万〇、二二六円は様似病院の治療費として支払い、また後遺症に対する補償六七万円は後遺症に対する慰藉料として充当し、本件においては様似病院の治療費と後遺症慰藉料は損害として請求していない。したがつて、原告の請求金額から実際に控除すべき金額は四〇万九、七七四円となる。

六  よつて、原告は被告両名に対し金三四二万七、四三〇円を請求すべきところ、自賠責保険から受領した金四〇万九、七七四円を控除した残額金三〇一万七、六五六円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四九年三月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

一  被告鎌田由太郎

1 請求原因一は認める。同二のうち、被告鎌田由太郎が本件加害車を所有していたことを認め、その余は否認する。被告鎌田由太郎が被告藤井長吉に本件加害車を貸与したことはない。同三の加療経過1のうち前段を認め、後段は不知、同2は認める。同3のうち、昭和四七年八月一五日ごろ頭痛、後頭部痛など激しくなつたことは不知、その余は認める。同四の1は認める。同2ないし4はすべて否認する。同五のうち、原告が自賠責保険から傷害に対する補償として金一〇〇万円、後遺症に対する補償として金六七万円の支払を受けたこと、右一〇〇万円のうち金五九万〇、二二六円が様似病院に治療費として支払われたことを認め、その余は不知。

2 被告鎌田由太郎は本件加害車を被告藤井に貸与したことはなく、自賠法三条の責任は否認するものであるが本件加害車を鎌田広美が運転するに至つた事情は次のとおりである。

(一) 本件事故の一か月ほど前に、被告鎌田由太郎は被告藤井長吉から「娘の結婚式を三月初めに札幌でやるので車(運転手つきの意味)を貸してほしい。」という趣旨の申立があつたが、被告鎌田由太郎は前記広美が免許を取得してわずか五か月ほどしか経つておらず、運転技術が未熟であるので断つた。

(二) 本件事故当日、前記広美が本件加害車を運転してえりも町字大和にある親戚の下山宅に出かけていたところ、被告藤井長吉の子である藤井末三から下山宅に電話があり、前記広美は同人から札幌まで車を運転してくれと執拗に言われ、広美は不安であつたから一且断つたが、友人である末三の頼みなのでことわり切れず、指示された場所であるえりも町歌別の原告宅前の国道まで引返し、原告(被告藤井長吉の妹の夫)、末三、富野静子(被告藤井長吉の娘)の三名を本件自動車に乗せて運転した。

(三) 被告鎌田由太郎は原告らのための運行を断つたにもかかわらず、末三は広美とは友人でもあり、断り切れないことを奇貨として広美に車の貸与と運転をたのみ、原告ら三名だけの運行利益のため、被告鎌田由太郎に無断で借りたものであり、被告鎌田由太郎はこれらの事情を本件事故後に知つたものである。

(四) 右の事実により、原告ら三名は自賠法三条にいう他人に該当しない。これは単に原告らの依頼による好意同乗の域を超え、好意同乗とは全く異なるもので、運行支配も運行利益も原告らにあつて被告鎌田由太郎にない間に起こされた事故である。したがつて、被告鎌田由太郎には判例の傾向にあるとおり、自賠法三条にもとづく責任は相対的に否定されるべきである。

3 仮に、被告鎌田由太郎が何らかの理由で自賠法三条の責任があり、被告藤井長吉と連帯して賠償すべき義務があるとしても、前記の事情によつて原告らにおいて発生した損害の八割まで原告らにおいて負担すべきである。また、原告の損害額は、治療費関係は金一三万二、二〇六円であり、休業補償は金一三六万二、〇二八円、後遺障害にもとづく逸失利益は金五四万八、〇五四円、慰藉料は金九〇万円を越えず、総損害額は金二九四万二、二八八円内にとどまるべきもので、原告は自賠責保険から一六七万円を受領しており、損害はすでにてん補されている。

二  被告藤井長吉

1 請求原因一および三は認め、二は否認する。同四は不知、同五のうち、原告が自賠責保険から金一六七万円の支払を受けたことは認め、その余は不知

2 被告藤井長吉には以下に述べるとおり自賠法三条にもとづく責任はない。

(一) 被告藤井長吉の三女月子は本件事故当日の午後六時三〇分から札幌市の共済ビルにおいて結婚式を行なうことになつていた。右結婚式に被告藤井長吉の家族が出席するため、被告藤井長吉は被告鎌田由太郎に一か月程前から札幌に被告藤井長吉の家族を本件加害車で送るよう依頼したことがあつたが、被告鎌田由太郎に断わられた。そこで、被告藤井長吉は長男末三に車の手配を頼んでいたところ、同人が勤務するえりも農業協同組合の車を借りて札幌まで行く予定であつたところ、当日運転手がおらず、やむなく知人の粘代氏に頼んで様似町まで運転してもらい、様似町から札幌まで汽車で行くことになつた。

(二) 右粘代が運転する車が被告藤井長吉の家を出発したのは当日午前八時半ごろで同被告は同乗していなかつた。同被告は飼育している牛の出産時が間近であり、牛の世話をするため娘の結婚式に欠席することになつていたものである。右粘代の運転する車は途中同被告の娘富野静子、原告の各家に寄り、同人らを同乗させた。まもなく、被告鎌田由太郎の息子広美の運転する本件加害車とすれちがい、末三が右広美に札幌まで送つてもらいたいと頼んだところ、右広美はこれを承諾し、本件加害車に乗り替えて札幌に向う途中本件事故が発生した。

(三) 右のとおり、被告藤井長吉は被告鎌田由太郎から車を借り受けたことはないし、鎌田広美に運転を依頼したこともない。えりも町においては営業車がないため、しばしば他人の車に乗せてもらうことがあるが、これは一種の運送契約に類似するものであり、同乗した者はお礼の意味でガソリン代等を支払うのが一般となつている。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因一の事実については当事者間に争いがない。

二  次に被告らの責任原因について判断する。

証人鎌田広美の証言および被告鎌田由太郎の尋問の結果によれば、被告鎌田由太郎は昭和四六年二月ごろ本件加害車を購入し、その所有者となつたこと(被告鎌田由太郎が本件加害車を所有していることは原告と被告鎌田由太郎との間においては争いがない。)同被告は自動車の運転免許を有せず、当時同被告のもとに同居していた同被告の子、鎌田広美が自動車の運転免許を取得していたので、日常同人が本件加害車を運転し、同人および被告鎌田由太郎の家族のために使用していたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、前記鎌田広美の証言および被告鎌田由太郎の尋問の結果ならびに証人藤井末三、同富野静子の各証言、被告藤井長吉の尋問結果(第一回)および原告本人尋問の結果によれば、昭和四六年三月四日午後六時から札幌で被告藤井長吉の三女、月子の結婚式が行なわれることとなり、被告藤井長吉は乳牛飼育のため結婚式に出席せず、同被告の妻および月子の兄弟らが参加することとし、当日式場には車で出かける予定を立てていたこと、そのため被告藤井長吉は右挙式の二〇日程前に被告鎌田由太郎に本件加害車を貸してほしいと申入れたところ、同被告から広美は運転免許を取つたばかりで、運転未熟であることを理由に拒絶され、そこでえりも町農業協同組合のレンタカーを借りて広尾にいる被告藤井長吉の子、政治に運転してもらうことを取決めていたこと、ところが式の前日に吹雪となつてえりもの黄金道路が不通となり、右政治から被告藤井長吉宅へ翌日はえりも町へ行くことができない旨の連絡があり、式の当日である同年三月四日早朝同被告の子、藤井末三は直ちに自宅から電話により三戸昭夫あるいは中野、粘代などの知合いに運転を依頼したが断られ、やむなく末三の友人でもある鎌田広美に運転を依頼し、同人も右末三から再三依頼され、他に運転手も見つからないということから運転することを承諾したこと、一方、原告は結婚式の二、三日前になつて急に式に出席することとなり、三月四日の朝原告は被告長吉宅に電話をし、被告藤井長吉の方で当日乗用車で式場に行くことになつていたので原告も同乗させてもらうこととし、車の手配一切同被告にまかせており、したがつて、原告はその同乗する車がどのような車で、誰が運転するのか、特に被告鎌田由太郎に無断で広美が運転するに至つた経緯については全く分らない状態であつたこと、鎌田広美は右末三と農協のレンタカーではなく、乗りなれた本件加害車を利用することを打合せ、待合せ場所を原告宅前と約束し、同所において原告と藤井末三および富野静子を乗車させて札幌に向い、その途中の様似町で本件事故が起きたこと、車の運転に対する謝礼については特に具体的に約束されたことはなく、運転を依頼した被告藤井長吉の方でガソリン代と若干の謝礼をするつもりであつたことがそれぞれ認められ、右認定をくつがえすに足りる適切な証拠はない。さらに、証人佐々木梅太郎の証言によれば、結婚式の当日藤井末三が鎌田広美に運転を依頼したのは被告藤井長吉の指示にもとづくことが認められ、右認定に反する証人藤井末三の証言および被告藤井長吉の尋問結果(第二回)はたやすく措信することはできず、その他右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右の事実関係を前提において被告らの責任について考察する。

先ず、被告藤井長吉は末三を通じて広美に運転を依頼し、そのため同人は本件加害車を運転してえりも町から札幌へ向かうこととなつたが、具体的な謝礼の約束もなく、右事実関係のみでは運転するかしないか、どのように運転するかなどについてはもつぱら広美の意思にまかせられており、いわば広美の好意に依存しているものであつて、被告藤井長吉が広美に対して運転の方法その他自動車の管理に関して指示監督しうる立場、すなわち運行支配をなすべき地位を取得したものとは言えない。また、鎌田広美が本件加害車を運転するのは結婚式に参加する被告藤井長吉の家族および原告を札幌まで送りとどけるためであり、原告が本件加害車に乗車するに至つたのも被告藤井長吉の方から原告に連絡したものではなく、原告が被告藤井長吉宅に電話をして同乗させてもらうこととし、車の手配を一切同被告にまかせたことは前記認定のとおりであつて、本件加害車の運行の支配、運行利益については原告と被告藤井長吉とは同じ地位にあり、相互に相手方に対し運行供用者の地位に立つものとは言えないものと言うべきである。それゆえ、原告の被告藤井長吉に対する本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

次に、被告鎌田由太郎が本件加害車を所有し、これを広美に運転させていたことは前記のとおりであり、広美が末三の依頼を受けて本件加害車を運転するに至つたのは被告鎌田由太郎の意思を無視したものであるけれども、原告がそのいきさつを全く知らなかつたことを考えると、被告鎌田由太郎は原告に対する関係においては運行供用者たる地位はいまだ否定しえない。しかし、鎌田広美が本件加害車を運転するに至つた前記経緯、特に広美や被告鎌田由太郎が断つたにもかかわらず、被告藤井長吉の指示を受けた末三からの依頼を受けてやむなく悪条件における危険な運転を引受けたこと、右運行はもつぱら被告藤井長吉の家族および原告のためになされたこと、原告は右運転依頼については関与していないが、車の手配については一切被告藤井長吉にまかせており、間接的に同被告らの広美に対する前記運転依頼に関与していることを考慮すること、損害の公平な分担をはかるため原告において生じた損害のうち五割を原告において負担するのが相当である。

三  損害について(以下原告と被告鎌田由太郎間についてのみ判断する。)

1  原告が主張する加療経過のうち、原告が本件事故直後様似病院に入院して昭和四六年四月八日まで入院治療を受け、同月九日から昭和四七年二月一三日まで通院治療を受けたこと、その後原告は同年五月八日函館市立函館病院に入院、同年六月三〇日まで治療を受けたこと、さらに同年八月一五日ごろから原告は幌泉郡えりも町の紺野医院に通院治療を受け、同年一二月一四日ごろ頸椎棘突起圧痛、右上膊神経痛、右大後頭神経圧痛、右肩関節裂隙前面圧痛、軽度の右肩関節拘縮等の後遺障害をのこし、治療を終了したこと、右症状により原告は自賠責保険後遺障害一二級の査定を受けたことはそれぞれ当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲二号証によれば、原告は昭和四七年二月一四日から同年四月一七日まで様似病院に入院したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  原告の受けた全損害について判断する。

(一)  治療費関係 金七二万二、四三二円

治療費として函館病院分金七万〇、三〇六円、紺野医院分金一万三、〇四〇円、様似病院分金五九万〇、二二六円、入院諸雑費金三万〇、八〇〇円、通院交通費金一万八、〇六〇円の合計

右は当事者間に争いがない。

(二)  逸失利益 金三一六万八、七二四円

(1) 休業損害 金二〇〇万四、三三三円

原告は昭和四六年三月四日本件事故により受傷し、症状が固定して治療が終了したのは昭和四七年一二月一四日ごろであり、成立に争いのない甲九号証の一・二、一〇号証の一・二および一一号証ならびに原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時漁業と副業のまき切りによつて収入を得ていたが、本件受傷により十分働くことができず、本件事故後副業のまき切りを中止したこと、漁業については昭和四六年は継続したものの人件費の増加が生じ、また昭和四七年には人件費が増加したうえこんぶ・海藻を除きその他の漁業を断念したこと、したがつて、原告は人件費の増加分と断念した漁業の収入分および副業の収入分につき損害が生じたものと認めるのが相当であり、昭和四六年の人件費増は金一七万円、昭和四七年のそれは金二四万五、〇〇〇円、合計金四一万五、〇〇〇円であり、断念した漁業の損害分は金二五万六、〇〇〇円と認められ、さらに副業については証人坂下鉄雄の証言ならびに右証言により真正に成立したものと認められる甲一三号証の一ないし二二および一四号証の一ないし六によれば、原告は毎年九月から翌年五月ごろまで副業のまき切りに従事して収入を得ていたこと、原告は昭和四五年九月から昭和四六年二月まで約五十数万円の収入を得ていたことが認められ、経費を除いても金五〇万円の利益をおさめていたと推認されること、したがつてまき切りに従事しうる期間の一か月の収益は金八万三、三三三円三三銭であること、原告は昭和四六年三月から五月まで、昭和四六年九月から昭和四七年五月まで、同年九月から一二月まで合計一六か月まき切りに従事できなかつたこと前記のとおりであり、その損害は金一三三万三、三三三円となる。

500,000/6×16=133万3,333

休業損害の合計は金二〇〇万四、三三三円となる。

(2) 後遺症による逸失利益金一一六万四、三九一円

前記成立に争いのない甲三号証によれば、原告は明治三八年八月六日生れであることが認められ、症状固定時原告は満六七歳であること、前記成立に争いのない甲一〇号証の一・二によれば、原告は昭和四六年に漁業により約七〇万円の純益を得たことが認められ、同年における人件費増加分金一七万円を考慮すると漁業の総収入は金八七万円と認められ、副業の一年間の収入は前記計算によれば金七五万円である(500,000/6×9=750,000)。したがつて、本件事故当時の一年間の収入は合計金一六二万円となる。

原告が自賠責保険後遺障害一二級に査定されたことは前記のとおりであり、その労働能力喪失率は一四パーセントであること、六七歳の就労可能年数が六年であることは当裁判所において顕著な事実であり、その逸失利益総額の現在価額(年別ホフマン式計算により年五分の割合による中間利息を控除する。)を求めると、そのホフマン係数は五・一三四であるから金一一六万四、三九一円である。

1,620,000×0.14×5.134=116万4,391(円未満切捨て)

(三) 慰藉料(後遺症分を含む。)金一五〇万円

原告の入院期間が一五四日間、通院期間が約一四か月間であることは前記のとおりであり、原告の傷害の部位程度、後遺症の程度等諸般の事情を総合すると、原告の慰藉料は傷害分金九〇万円、後遺症分金六〇万円と認めるのが相当である。

(四) 以上の各傷害を合計すると原告の損害は金五三九万一、一五六円となる。

3  原告の負担分の控除

原告の負担分五割を差引くと原告の損害は金二六九万五、五七八円となる。

4  損害のてん補

原告が自賠責保険から合計金一六七万円を受領したことは前記のとおりであり、これを差引くと金一〇二万五、五七八円となる。

5  弁護士費用 金一五万円

原告が原告訴訟代理人に本訴の提起進行を委任したことは本件記録上明らかであり、本訴の認容額、事件の難易等本件にあらわれた一切の事情をしん酌し、被告鎌田由太郎に負担させるべき弁護士費用は金一五万円をもつて相当と認める。

四  以上のとおり、被告鎌田由太郎は金一一七万五、五七八円および内金一〇二万五、五七八円に対する本件事故後であり、訴状送達の翌日である昭和四八年三月三〇日から支払ずみまで、弁護士費用金一五万円については本判決確定の日の翌日から支払ずみまで(弁護士費用として原告がいくら支払つているかを立証する証拠はなく、この金員に対して遅延損害金が発生するのは本判決確定の日の翌日と解すべきである。)、それぞれ民事法定利率年五分の割合による金員を支払うべき義務があり、原告の被告鎌田由太郎に対する本訴請求は右の限度で理由があるから認容し、その余の請求および被告藤井長吉に対する本訴請求はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安斎隆)

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